トロールハウゲン再訪 Troldhaugen

作曲家エドヴァルド・グリーグ(1843-1907)の家トロールハウゲンでは5月から10月頃まで毎日、グリーグ作品のピアノコンサートを開催しています。(注:グリーグの作品はほとんどがピアノ曲です)私は昨年の夏はトロールハウゲンのガイドとして仕事をしていましたので、今年もいつか訪れようと思っていました。今週は、昨年グリーグピアノコンペティションで優勝した日本人ピアニスト、高木竜馬さんのリサイタルが連日開かれていましたので、聴きに行ってきました。

200席あまりの室内楽に最適の小ホールが満席となり、この日は人気の為、さらに追加のコンサートが予定されていました、プログラムも、このコンサートシリーズではよく登場する曲ばかりでしたが、新鮮な解釈と確かなテクニックで観客を魅了し、終演時はスタンディングオベーション!このホールでは良いコンサートが度々ありますが、こんなに熱く観客に受け入れられたピアニストは滅多にいないのでは?と思いました。トロールハウゲンスタッフからの評判もとても高かったです。

このトロールハウゲンの夏のランチコンサートシリーズはいつも聞き応えがあります。それは、出演ピアニストの演奏技術の高さのみならず、多くのピアニストが趣向を凝らして、グリーグの描いた世界を話して聞かせる所にあります。グリーグの芸術家人生を語るレクチャーコンサートとも言えます。物価の高いノルウェーですが、音楽好きの方にとっても価値のあるお値打ちコンサートだなといつも思います。(因みにコンサートと博物館入場料が180NOK=2265円、街からのガイド付きバスツアーが290NOK=3650円)

このシリーズに出演するピアニストの精神的・体力的なタフさにもいつも驚かされていました。夏の半年間、ベルゲンには欧米の港からの数々のクルーズ船が到着し、街は観光客で賑わいますが、そのクルーズ船からの観光客の訪れる人気スポットの一つがトロールハウゲンです。クルーズ船が複数到着する日は、ピアニストは1日に5回も6回も演奏しますし、船のスケジュールによっては、ステージ間の休憩が十分に取れないこともしばしばです。それでもプロとして同じクオリティを提供するのを何度も見てきました。

昨日は、ベルゲンに来てから初めての夏日。気持ちの良い1日を街の郊外で満喫しました。これからベルゲンに旅行に行く音楽好きの方、トロールハウゲンは絶対オススメです。

http://griegmuseum.no/en

ランズカップレイクLandskappleik i Vågå 2019

今年もノルウェーの民族音楽の全国大会、ランズカップレイクLandskappleikに参加しました!毎年ノルウェー国内開催地を変えて、それぞれ地元の民族音楽団体が主催して開催されるランズカップレイク。今年は3年前と同じ、グドブランズダールGudbrandsdal地方はVågåでの開催でした。丸一日かけて、飛行機でまずベルゲンからオスロに移動し、そこから電車でオッタOttaまで乗り、さらに最後は30分のバスで Vågåmoという小さな街まで、途中オスロで友達に会って喋ったりしていた時間を抜いても約10時間かかりました。

Gudbrandal地方は、西ノルウェーとはまた違った美しい自然のある所で、ノルウェー一高い山、Jotunheimen山もすぐ近く。あの作曲家のグリーグも度々山歩きに訪れて曲を書き取った地元の女性、イェンディーネGjendineが赤子の時に拾われたと言われるイェンデ湖Gjendeも少し行った所にあります。前回はカップレイクに明け暮れていたため、地元に何があったのかなど、ほとんど覚えていませんでしたが、中心には元々1150年に建てられたという木造教会があったり、地域のアーティストによる革製品の店(主にトナカイの革)とかカフェなども幾つかあり、美しく楽しい街でした。

さて、ランズカップレイクとは民族音楽の全国大会だと書きましたが、色々な部門があります。まず、ノルウェーの民族音楽では欠かせない楽器といえば、フェーレfeleとハーディングフェーレhardingfeleですが、その楽器の部門が大きく分けて年齢、レベル別にそれぞれ4つあります。18才までの部門がC部門、18才から65才までがB部門、65才以上はD部門となります。18才以上のB部門のプレーヤーはそれぞれの楽器と地域で、知識・経験・演奏内容共にトッププレーヤーであると認められればA部門で弾く事ができます。この決まりはなかなかシビアで、B部門でも相当弾ける人はいくらでもいるのですが、Aに上がるにはB部門で一定ポイント(75点)以上を2度獲得しなければならず、またAに上がると基本的にBに戻ることはないのですが、大会経験に2年以上のブランクがあるとBで弾いても良いという規定があります。若いプレーヤー達の技術的な進歩は早く、常に弾いていなければレベルに追いつけないという現状もあります。Aであれば65才を超えてもAで弾くことは出来るのですが、そう言った現状も踏まえ、Dで弾くプレーヤーも多くいます。同じようなシステムが民謡の部門Vokal、ペアダンスDans、ソロダンスであるハリングHalling/Lausdansにあります。グループ演奏の部門はLagspelとGruppespelがあり、地域のグループ同士が地域対抗で行うものがLagspel、より個人芸にフォーカスした2-3人の少人数のグループ演奏がGruppespelですが、こちらは成人の部と青少年の部に分けられています。同じくダンスにもグループダンスLagdans(地域対抗で、ダンスペアがいくつもある)が成人の部と青少年の部で開催されます。より歴史的に古く、あまり数の多くない楽器はAndre eldre folkemusikkinstrumenterという部門があり、口琴やランゲレイクLangeleik、ドラムslåttetromme、笛 Seljefløyte/sjøfløyte などがここで芸を披露します。フェーレやハーディングフェーレが技術を競う傾向が強いのに対し、この部門はより珍しい楽器を見ようと歴史的探究心で観客が集まります。いつも見所が多く学びのある面白い部門です。逆により新しくこのジャンルに参入した楽器としてDurspel(アコーディオン)がありますが、こちらは30年程前よりもう一つのコンテストLandsfestivalen for gammeldansmusikkができたため、ランズカップレイクでは規模が大きくはありません。同じく成人の部と青少年の部に分かれて開催されます。ここまで書いて、まだ残っている部門があります。Open klasseといって、基本的にノルウェーfolkemusikkのジャンルに沿っていれば何をやっても良いという部門です。アレンジしたものや実験的なものが多い部門です。それはそれで判定基準が難しいのですが、上位3グループだけを選び、あとは順不同という判定になります。(注記)

私は、ハーディングフェーレのソロ部門であるSpel hardingfele Bと、LagspelをベルゲンのグループAudhildsで出場しました。毎年ソロ部門は出場するのですが、他のプレーヤーの点数配分を見ても、自分の点数を見ても、本当に些細なことで点数が上下することは常に承知しています。舞台に上がる前も上がってからも異常に緊張して思うように弾けないことばかりでいつも心が折れそうになります。今年はありがたいことに、Aへの判定へはまだ一歩及ばないものの、66点、参加者35名中11位とまずまずの成績をもらう事ができました。Audhildsは全体で7位、ハーディングフェーレのグループとしては全国2位と好成績で、こちらも皆気分上々でした。

日中のコンテストの後は、夜中2時までは会場を3つ用意して、ダンスの時間です。Audhildsもダンスの伴奏をしましたが、ダンス会場を見て回って自分の好きな場所を見つけ、友達を見つけ、踊って飲んで笑って、この音楽、お楽しみはいつも夜中です。

毎回ランズカップレイクの一番の目玉と言えば、Spel Hardingfele Aでしょう。この部門の出場者は皆実力があるため判定が特に難しく、いつも誰が勝ってもおかしくない状況でプログラムがスタートします。今年の出場者は20名、一巡目が終わってから上位3名をピックアップして決勝Finaleでもう一度3人が弾き比べ、最終的に王者を選びます。今年は決勝にPer Anders Buen Garnås、Ottar Kåsa、Alexander Aga Røynstrandが残りました。いずれの奏者も私は個人的に知っていますが、一巡目からそれぞれ最高の演奏をし、Ottar Kåsaに至っては「神のように」弾きましたが、最終的な王者はAlexander Røynstrandとなりました。AlexanderとはOleBullAkademietの同級生で、学生時代から幾度となく弾いていた(聞いていた)曲がFinaleでの演目でしたが、今回の演奏は学生時代のそれとは全く違い、いかに彼が一つの曲を時間をかけて育て上げ、発展させているかを目の当たりにしたのでした。一巡目、Finale共に彼の演奏は、奏者として本当に尊敬でき、学ぶところが多く、心から感嘆と賞賛の気持ちで一杯です!!

この決勝戦の様子はFolkemusikktimenというラジオ番組で聞く事ができます。(今週はFele A/ Hardingfele A のみです)

https://radio.nrk.no/serie/folkemusikktimen

Folkemusikktimenでは例年、しばらくはランズカップレイクの見所をピックアップして色々な部門を放送します。(実は全ての部門、録音・録画されているのです!)放送時間は毎週日曜日、ノルウェー時間18:00からでインターネット上で半年間聞く事ができます。来週は恐らく他の部門の決勝が放送されると思います。これ以外のランズカップレイクの見所は色々ありましたので、追々書いていきます。

 

注記:お詫びと訂正

ランズカップレイクの規定は毎年少しずつ改定があり、暫く見ていないと情報が古くなってしまいます。以下の点について情報が誤っていましたのでお詫びして訂正します。

Aクラスに上がってから「5年以上」のブランクがある場合はBで弾いても良い

Dクラスは「60才以上」の部

なお、Cクラスは18才未満の部ですが、12才以上である事が条件です

Open klasseは昨年から全てのグループに点数をつけるよう変更となっています。このクラスの成長ぶりは近年ものすごく、今年は21組が出場しています。クラス規定も2002年に始まった頃と比べて随分とはっきりしてきていますが、「古くから伝わる」演奏法や楽器を用いたソロ、アンサンブル(具体的には他の部門で見られるような楽器を用い、レパートリーもスプリンガルやガンガル、もしくはfolketoneなどのメロディーなどを用いる)で、従来・伝統的な演奏法に囚われないアレンジ、実験的なもの、と規定されています。演奏時間は最長6分まで。

Andre eldre folkemusikkinstrumenter(その他の民俗楽器の意味)の中に、ランゲレイクLangeleikと口琴Munnharpaも入れて書きましたが、本来はそれぞれの部門です。人数がそれぞれ多くないため、同じ時間枠に続けてコンテストが開催されます。

再びノルウェーへ

6月冒頭のコンサートが終わってすぐ、知人でピアノ調律師の小川瞳さんから連絡を受けて、大島史成さんのレコーディングに参加させていただきました。大島さんはピアノ弾き語りがメインの作詞作曲、演奏まで全てご自身で手掛けるアルバムを作成中で、作品のいくつかに弦楽器を入れたいということで、ご相談を受けました。当初、大島さんはハーディングフェーレのことなどご存知なかったにも関わらず快く参加を受け入れてくださり、私にとってもとても楽しく勉強になるレコーディングとなりました。大島さんの綿密に作られた作品が完成する日が待ち遠しいです。

今回は調弦法を2つ使い分けました。3曲参加した中の1曲だけはキーが違っていて、ふと思いついて調弦を変えてみたらこれがピッタリ。伝統曲では少し珍しい調弦法が、大島さんのポップな曲に果たして合うのかと半信半疑でしたが、これまた意外にハマったようで面白い発見でした。

調律師の小川瞳さんは、5年ほど前に私がまだヴォスのOle Bull Akademietに通っていた頃にお世話になっていたSigbjørn Apelandからの紹介で知り合いました。実は内緒にしていましたが、私はOle Bullでは副専攻でピアノとオルガンを取っていてSigbjørnはその時の恩師です。その後もアーカイブでの調べ物、ノルウェーでの日常生活の諸々の相談に至るまで本当にお世話になりました。Sigbjørnが日本公演をした時にお世話になった調律師さんが小川さんで、是非日本に帰ったら会ってくるようにと言われ、工房を訪ねたのが早5年前。そのご縁が今回のレコーディングにつながりました。

さてその後、慌ただしくノルウェーに再びやってきています。今回はFinnairで伊丹ー成田ーHelsinkiーBergenとやってきました。ベルゲンは観光都市ではありますが小さな街なので、夏の数ヶ月間しかヘルシンキからの直行便がなく、なんと今回もプロペラ機。そのちっちゃい機体の乗り場に行き着くまでにヘルシンキの空港でどれだけ歩いたか…!乗り継ぎ時間40分。空港で呼び出されたもののなんとか間に合いました。それにしても、ヘルシンキは気温25度に対してベルゲン12度。こちらに来てから毎日これくらいの気温です。

ベルゲンの街は半年ぶりですが、何も変わっておらず(当たり前か)、まるで昨日もいたかのように毎日を過ごしています。Spelemannslagとの練習、恩師との再会、楽器の修理、新しい出会い…来週はLandskappleikenでGudbrandsdalはVågåまで1日かけて大移動です!

8/29コンサートのお知らせ

さて、日本全国いよいよ梅雨入りの季節になってきました。

私は6月後半から7月後半にかけて1ヶ月ほど再びノルウェーへ旅立ちます。6月最後の週末には、ランズカップレイクというノルウェー民族音楽最大のコンテストが開かれるので、それに参加すること、友人知人を訪ねたり、楽器のメンテナンスをしたりする予定です。ランズカップレイクではソロの部門とラーグスペル部門の両方に出場します。ラーグスペルLagspelというのは、各地域ごとに作られているスペルマンスラーグと呼ばれるフィドラーグループ同士が演奏の腕を競うもので、いわば「地域対抗団体戦」。私はここ2-3年一緒に活動をしてきたベルゲンのグループ、Audhildsと出場します。ベルゲンには18才以上が参加するハーディングフェーレのスペルマンスラーグが2つあります。一つはより年配の奏者が多いFjellbekken、もう一つは学生が中心になって結成されているAudhildsです。ジュニアチームもあるのですが、実はこのベルゲンのジュニアチームは何度か全国大会を制覇したことのある強豪チームなのです。ソロ部門はそれぞれの奏者が主に出身地域の伝統曲を披露します。私はここ数年ずっとテレマルク地方の曲を演奏しています。夏の短いノルウェーでは、夏になるとここぞとばかりに数々のフォークミュージックフェスティバルが開かれますが、私はこのランズカップレイクが一番好きです。特にハーディングフェーレのソロの部門はできる限り最後までじっくり聞いて、他の奏者達の技を見て勉強したり、励ましあったりするのです。

さて、日本へ帰ってきたら守山市民会館でのロビーコンサートです。今回も榊原明子さんとの共演でお届けします。入場無料ですのでお時間よろしければ是非お越しください。

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6月2日 コンサート Slåtter ノルウェーの森に伝わる音物語

年始から準備を開始していたコンサートまで、いよいよ後2ヶ月となり、フライヤーが完成しましたのでここにお知らせします。

ハーディングフェーレのソロ曲が中心ですが、それぞれの曲とともに伝わる物語、伝統的に使われてきた場面や時間帯などのコンテクストと共にプログラムを組み立てます。今回は、ピアニストで作曲家の榊原明子さんと共にコンサートを作っていきます。皆さまお誘い合わせの上、是非ご来場下さい!

 

スロッテル ノルウェーの森に伝わる音物語

日時:   2019年6月2日 13:30 Open 14:00 Start

会場:   堀江アルテ 大阪市西区北堀江1-18-17 モトバヤシビル7階

出演:   樫原 聡子 ハーディングフェーレ/ 榊原 明子 ピアノ

料金:   大人 前売 ¥2,800 当日 ¥3,000 /  高校生以下 前売 ¥1,300   当日 ¥1,500

ご予約:contact@satokok.com

後援: ノルウェー大使館 / 日本・ノルウェー音楽家協会

Konsert: Slåtter – musikk og historie som overlever i skogen

Endelig er det 2 måneder til konserten “Slåtter : musikk og historie som overlever i skogen”, og nå plakatene er i trykkeri. Jeg skal lage programmet med solo hardingfele slåtter i grunn, sammen med historier og gamle kultur bak slåttespel. Det er flere slåtter som er knyttet med ulike historier, og ulike felestiller hadde vært knyttet med tidspunkt og seremonier i gamle tiden. Jeg skal spille hardingfeler og fortelle historier.

Jeg skal ha med en dyktig kvinnelig pianist, Akiko Sakakibara. Hun har jobbet med komponering av egne låter og improvisasjon, og er spesifissert med å spille piano med “japanske vri”. Hun har jobbed med norske artisten Marja Mortensson da Marja besøkte Japan. Overlaskende faktum er at jeg og Akiko studerte i samme skole i Japan, og vi har kjønt hverandre lenge. Jeg er veldig spent med hvordan norske hardingfeleslåtter blir denne gangen. Så langt har øvingene gått fint, og vi gleder oss veldig mye til konserten 2. juni!!

Spellemann 2018

先週の土曜に、ノルウェーのグラミー賞と呼ばれる、スペルマン賞が発表になりました。毎年、3月にその前年1年間に発表されたCDの中からそれぞれのジャンルでベストアルバムを選ぶものです。昨年の伝統音楽部門はAnne HyttaのStrimurが選ばれました。

そして、今年、昨年の11月に3度目の来日公演を果たしたMarja Mortenssonのアルバム<<Mojhtestasse – Cultural Heirlooms>>がノミネートされていましたが、見事、本賞を受賞されました。Gratulerer!!

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その他のノミネート作品は以下の通りです。

Aslak Brimi Kvartett

«Vev»

Johanne Flottorp

«Johanne Flottorp»

Sudan Dudan

«Heimen der ute»

Marja Mortensson

«Mojhtestasse – Cultural Heirlooms»

ジャイロキネシスとのコラボイベント

ジャイロキネシスというエクササイズをご存知でしょうか?

NY発祥の背骨の調整をメインとしたエクササイズで、開発したのはバレエダンサー。腰を酷使するダンス中に体を傷め、ご自身のリハビリの為に開発したメソッドだそうです。その為、ダンサーに支持を得ているエクササイズと聞きました。マシンを使ったエクササイズのジャイロトニックに対して、ジャイロキネシスは椅子に座った状態で行うエクササイズで、大きく胸を開いたり、脇腹を伸ばしたりするのですが、あくまでも体軸を意識して行うので無理がなく、エクササイズ後の爽快感がたまりません。

私は3年ほど前に体調を崩しその時に住んでいたベルゲンで出会ったのがこのジャイロキネシスのエクササイズです。その時インストラクターをしてくれたのはタンゴダンサーの整体師さんですが、日本に一時帰国した時にもジャイロのスタジオを探しお世話になったのが、同じくダンサーで、ジャイロキネシスのインンストラクターである丸井知世さんです。

何度かライブでお世話になっているスタジオTime Blueさんにはジャイロトニックのマシンがあり、よくレッスンをされています。何気なく、以前にジャイロのレッスンを受けたことがあるんですと話したところ、何と、丸井さんがTime Blueさんでレッスンをされているというではありませんか!?

お陰様で体調の方はエクササイズの効果かその後みるみると良くなり、今ではすっかり元気です。5月12日(日)には、スタジオTimeBlueでその丸井さんとのコラボイベントが実現します。

まず14:00から丸井知世さんの呼吸にフォーカスしたジャイロキネシスのエクササイズを1時間。その後休憩15分を挟んで1時間のコンサートです。このコンサートは特別で、ヨガマットの上に横になったり、座ったり、お好きな体勢で聞いていただきます。勿論、間で寝てしまってもOK。エクササイズの後は体もリラックスしていますから、そのままリラックスして音楽を楽しんでもらおうというコンセプトです。音楽もゆったりとしたバージョンでお届けする予定です。題して「ジャイロキネシスと寝ても良いコンサート」。エクササイズの爽快感と音楽でリラックスしたい貴方、是非ご参加下さい!

 

May 12th 2019 @ Studio Time Blue 天神橋筋6丁目

ジャイロキネシスのセッションとのコラボイベント。

エクササイズとコンサート各1時間 ¥3,000

14:00 ジャイロキネシス Start インストラクター:丸井知世

15:15 コンサートStart コンサート:樫原聡子

Jotunheim-springar

Jotunheim-springer ヨートゥンハイメンのスプリンガルは、有名な「ヨートゥンハイメンの夏の夜 Sumarkveld i Jotunheimen」のテレマルク地方のヴァリアントのひとつです。2人のプレーヤーによってヴァルドレス地方で作曲されたこの曲が各地に伝わり、ヴォスでは大変結構なリスニングチューンに発展しましたが、テレマルクでは非常に簡素なスタイルで残っています。あまり演奏されることのない曲ですが、テレマルクの同じ調弦法の曲にはない調性感と美しい旋律が魅力です。

先週末、滋賀県の琵琶湖の近くにあるとても素敵なレコーディングスタジオにお世話になり、レコーディングをしました。大阪に帰ってきて、というよりヴォスやラウランドを離れてから自然いっぱいの景色からご無沙汰でしたが、なんと、そこはVossの景色にそっくりではありませんか?!楽器の話、ノルウェーの話など色々聞いていただき、録音も自分の音とは思えないクオリティーで録っていただきましたので一部ここにシェアします。

さて、今週末はスタジオ、Time Blueさんでのソロライブです。今回も調弦法を駆使して色んなハーディングフェーレの音色を聴いて頂こうと思っています。ご都合よろしければ是非お越し下さい。

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楽譜とFolkemusikk vol.2 「楽譜には何も書かれていない」のか?

さて、vol.1で「楽譜にはほとんど何も書かれていない」と称されることについて書きましたが、では何故そう言われるのでしょうか?

そもそもハーディングフェーレの音楽は口承伝統です。古い演奏家たちは楽譜を介すること無く曲を伝えてきました。当然、伝え間違いがあり、現在に残されている豊かなバリエーションやヴァリアントは、その結果だとも言われるほどです。とある音楽家は、「ハーディングフェーレの曲はもともと3曲くらいしかなかった」とすら言います。間違いもあれば、忘れ去られることも多かったことでしょう。

民謡収集の始まったのは19世紀半ばごろのことです。当時のハーディングフェーレの奏者たちの大半は楽譜は読みませんでした。民謡収集に乗り出した人の多くは都会に住む音楽家たちです。初期になされた楽譜集は当然、ハーディングフェーレの語法を知る人がしたものではありませんでした。最初期の楽譜集として知られる、L.M.リンデマンの「新旧ノルウェーの山の旋律」には歌に加えて恐らく器楽曲も収集されただろうと指摘されますが、インフォーマントに関する情報が残っておらず、誰がどんな風に弾いていたのかはおぼろげにしかわかりません。ハーディングフェーレの曲が最初に楽譜になったのは1860年頃と言われていますが、ハーディングフェーレの語法を知る音楽家による採譜は20世紀になるまでなされませんでした。音楽学者が収集旅行に出かけるようになった20世紀初頭ですら、情報提供者たちはある種不審の眼差しを学者たちに向けていたことでしょう。「最近、街から〇✖️△が来て、曲を弾いてくれって頼まれたさ。だけどよー、しめしめ、一番大事な曲は弾いてやらなかったぜ。」収集家たちも初期の頃は音楽語法の理解に誤差があり、必ずしも正しく記譜ができていないことも、奏者たちの不満に繋がります。

ハーディングフェーレの楽譜を使えるようになるには、まず音楽語法を知らなければならないと言われます。ハーディングフェーレの音楽には、地域によってアシンメトリーの3拍子を用いますが、現在でもこのリズムは楽譜には記載されません。奏者たちはどの地方の曲なのかという情報を元に、正しいリズムを使って演奏します。また、多くの場合奏者はバリエーション(細部の装飾や節回し、構造的バリエーション)を用いて曲を演奏していきますが、楽譜には1つの例しか示されていないことが殆どです。加えて、ハーディングフェーレの楽譜は5線譜に似てはいますが、音高の表記について特別な決まりがあり、そのルールを知らなければ読むことができません。ハーディングフェーレの楽譜は完全では無く、それを必死で追いかけても正しくはならないことも多いのです。

時代が下って、広く譜面を読む習慣が一般に広まっている現代に置いても、民族音楽家たちは普段、楽譜を使うということは殆どしません。古くから楽譜を介すること無くやり取りをしてきた文化があまりにも強いのです。私自身、ハーディングフェーレの曲を楽譜で見始めた頃は、とんでもない違和感に襲われたことをよく覚えています。楽譜はFolkemusikkをする上である意味「異文化」であり、そこに音楽を感じることができない人が大勢いるのも事実のようです。Vol.1のAnne HyttaのLeiv Solbergによるインタビューは実は「この(今回あなたが曲を見つけてきた)ハーディングフェーレヴァルケって、現在の若者にはすこぶる人気がなくて殆ど誰も使っていないんですよね」で始まります。民族音楽の教育機関では、ハーディングフェーレヴァルケなどの楽譜資料を積極的に学生に使うように指導をしますが、一般的に楽譜から曲を学ぶことはある程度の経験を積んだ上級者がすることと考えられています。

 

楽譜とFolkemusikk vol.1「装飾に彩られた典型的なTelespelの表層の下にあるもう一つの価値」

Folkemusikkと譜面について、最近折につけて考えさせられることが多いのですが。2年前に書き始めた記事で投稿していないものがあったのでこの機会に投稿しておきます。

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昨年の秋から、譜面から曲を学ぶという訓練をしています。私は子供の頃からピアノを弾いていましたし、譜面には随分と馴染みがある方と思っていましたが、ハーディングフェーレを始めてから、トンと、譜面から音楽を紡ぐということからご無沙汰していました。というのも、ハーディングフェーレの音楽は基本的に「耳から学ぶ」ことが文化として定着しており、どの(教育)レベルにおいてもそのことが最重視されているからです。クラシックの世界では「楽譜をみろ。楽譜に全てが書かれている!」という提言?が使われることがあるのに対してこちらの世界では「譜面にはほとんど何も書かれていない」と言われることがしばしばです。

かといって、譜面が全く無いというわけではありません。よく知られているものに、数巻に及ぶ譜面集、通称ハーディングフェーレヴァルケHardingfeleverketというものがあります。これは1930年代から80年代にかけて編集され出版された譜面全集一大プロジェクトで、この中にはこの年代よりも以前から収集された採譜(演奏から書き起こされた譜面)、またこのプロジェクトのために書き留められたものなどがありますが、何れにしてもハーディングフェーレでは、基本的に音より先に譜面が生まれることはなく、音がまずあって、譜面はその後に書かれるものという位置づけになります。これ以外にも、19世紀後半から多くの音楽学者やプレーヤーによって民謡収集があちこちで行われ、出版されたもの、個人の所有のもの、アーカイブの所有と幅広く存在しています。一番古いハーディングフェーレの譜面集は1860年代に出版されたと言われていますが、一番古い録音は、というと1910年ごろと随分時代は下ります。録音技術がエジソンによって発明される1878年以前は、音を記録するということがいかに困難だったことでしょう!では、一番古い楽譜集を当たれば、最も「コア」な情報にアクセスできるのでは?と当然考えますが、古い楽譜の記載の質が録音をも勝るものだったかどうか、想像に難くありません。かくして「譜面にはほとんど何も書かれていない」となってしまうわけです。(注1この格言にはもう一つの重要な意味がありますが、それは項を改めます。注2古い譜面を使うにはその譜面の性質の分析をまず行う必要があります)

さて、そんな譜面ですが、譜面を使うことから得られる情報や喜びは意外にも多いということを最近痛感しています。音楽を耳で聞くだけでなく、目でも見ることによって、聞き逃してしまっていた表現を再確認することができ、詳細に曲を理解したり、分析するのにある意味適していると言えます。また、それ以上に価値が認められている理由の一つとしてよくあげられるのが、あまり知られていない曲やバージョンの素材としての重要性です。

ハーディングフェーレヴァルケには、有名なプレーヤーによるよく知られた曲のよく知られたバージョンも収録されてはいますが、同じ曲のあまり知られていないバージョンが収録されていることも多く、Folk Music のプレーヤーにとっては宝の山でもあるのです。

先日、テレマルク出身の私の師匠の一人でもある演奏家、Anne Hyttaが自分の出身地近くの殆ど現在では弾かれていないレパートリーをハーディングフェーレヴァルケから取りあげ、音の素材として国営放送NRKに10曲以上の録音を残し、その録音について、NRKでインタビューが行われました。

そのインタビューの中で彼女は、自分は若い頃は楽譜から曲を学ぶということは全くしなかったし、楽譜を使い始めるまでにかなりの準備期間を要したと語ります。いわゆる「テレマルクの伝統」は美しい装飾に彩られたきらびやかな音楽であることが知られていますが、もっとシンプルなスタイルが、ハーディングフェーレヴァルケを注意深く勉強すると見つかるということに気づいたのは、彼女の師匠の一人であるHåkon Høgemoの指摘でもあったそうです。彼女は大学時代からそういった「もう一つのテレマルク」を探してハーディングフェーレヴァルケを見るようになった、と言います。そういったあまり知られていない小さな曲たちについて「装飾に彩られた典型的なTelespelの表層の下にあるもう一つの価値」という言葉で表現しています。シンプルなスタイルの中にも音楽的な価値を見出しているのです。

レッスンの中で、彼女のそういったスタンスはよく語られました。有名な曲は勉強する価値はあるが、あまり知られていない曲も大切にすること。音楽的な価値としてだけでなく、Anne はそうしてある意味「再発見」した曲を地元の若い世代の演奏家たちがまた弾き始めるように、ワークショップをしたり、コンサートで弾いたりして地域の文化を次世代に伝えることにも貢献しています。

彼女は譜面から曲を音に起こしたにも関わらず、録音スタジオには一切譜面を持ち込まなかったことからさらに質問が続きます。論点は「果たして、音楽をする上で譜面は妨げにはならないのか?」。ハーディングフェーレの音楽はとてもフレキシブルなもので、曲の構造、細部のバリエーションを試しながら曲の可能性を「探索」することも曲を消化する上で重要なプロセスです。私が知る限り、彼女はそういった細部の工夫や曲の再構成に置いて非常にクリエイティブな演奏家ですが、楽譜を使うことはある意味そういう意味での音楽をやる上で足枷にもなり得るし、それを避けることもできると答えました。彼女のメソッドは、だいたい一通り曲が弾けるようになったなと思ったら思い切って全部譜面を外してしまい、出来るだけ早く音楽を自分らしく消化するようにする、というものです。

譜面はこのように、うまく使うと大変に価値のあるものになります。ところが、使い方を誤るととても厄介なのです。