Salve Håkedalの楽器は定期的に状態のチェックをしてもらっています。何も問題がないと思っていても、表板がはがれかけていた、とか、指板がすり減ってしまったとか。そういう問題を気づかずに放って置かないためにも、定期チェックを受けるようにしています。(ちなみにハーディングフェーレのD弦は巻き弦を使用することが多いため、指板のすり減りは必ずおきます。できれば自分で1年に一度くらいは手入れをすることを勧められていますが、それについては後述します)
小柄な私は手も小さく、スタンダードカスタマイズの楽器だと、ナットの部分をほぼ必ず調整しなければいけません。2本の弦を同時に押さえる、いわゆるダブルストップ奏法の多いハーディングフェーレでは指が細い、手が小さいというのは不利であるとも言えますが、この部分を調整することによって、ほぼその問題は解決します。新しい楽器は、必ずまずこの調整をしてもらうのですが、今回のHellandの場合は1年以上最初のカスタマイズのまま使っていました。ある程度慣れる部分もあるのですが、やはり弾きにくいので、いつもの定期チェックに加えて、ここをまず調整してもらいたいとお願いしました。
このHelland-feleは、現代のスタンダードの大きさのハーディングフェーレと比べるとやや小振りに作られています。ハーディングフェーレの発展の歴史では一般的に1860年を境に楽器の近代化が計られ、大きな楽器が作られるようになったと言われていますが、詳しく調べて見ると、一概にもそうとは言えないようです。当時人気のあったプレーヤーの楽器を次々と製作していたErik Jonsson Helland (今回のOlaf G.の2世代前の製作家)は1860年代のはじめにコペンハーゲンでバイオリン制作を学び、その後からバイオリンに似た形のものを作り始めたそうですが、旧来型に比べて大きくなってしまった楽器は当時のプレーヤーからは受けが悪く、トレンドの揺り戻しが起こり、しばらくはバイオリンよりは少し小型のものが多く作られたそうです。(Bjørn Aksdal “Hardingfela”参照)
調整を考えた時に、この「小型に作られている」ということがどう影響してくるのか?私は製作のことはわかりませんが、駒の位置、それに関連してくる魂柱の位置というのは当然、影響を受けるのでは、と思います。古い弦楽器修復の際の注意点として、ストップとメンスールの確保、とは聞いたことがありますが、この楽器の場合、おそらく(飽くまでも想像です)オリジナルのものよりは少し大きな現代の駒を置くことによってこの長さを確保していたようです。その結果、楽器は張力、弦高が高く、ストロークも指の力もあまり強くない私には弾きにくいものになっていたようです。もちろん絶対的な正解はなく、個人差があるのでしょうが、残念ながら私のスタイルにはあっていませんでした。そこで、弦高を低くする調整もお願いしました。
小型の楽器ということで、ネックも通常のものよりも5mmほど短く作られています。つまり、左手の指を押さえる位置も現在のものよりも少し狭いわけです。この差に適応できるかどうかは個人差があるでしょうが、私の場合は、時間はかかったもののほぼ適応させていました。もともと手が小さいこともあり、大多数の人よりは影響が少なかったのかもしれません。
新しいナットと、弦高の調整。これが今回の調整の2大テーマです。(続く)