2月は悲しい出来事の後、風邪をひいたり、なんだか重苦しい気分のまま終盤を迎えた先日の日曜日、嬉しいニュースがあり、一気にテンションが上がりました。
今週の日曜、2月25日、ノルウェーでは昨年一年間 (2017年)に発表された音楽作品(CD)の中からそれぞれの分野でのベストアルバムを選ぶ、スペルマン賞が発表されました。その中で、私が個人的に大変お世話になったり、音楽をする上でとても影響を受けている方が2組も受賞したのです。
まず、フォーク、伝統音楽の分野では、アンネ・ヒッタ Anne HyttaのストリームールStrimurという作品が選ばれました。Strimurというのは、テレマルクの言葉で「日差し」とか「明かり」を意味します。その通り、テレマルクの伝統曲を収録したハーディングフェーレのソロアルバムです。彼女は間違いなく、私がこれまでに一番影響を受けたプレーヤーの一人です。これまでのレッスンの中で教わった曲も、それから数年たった今、彼女らしい解釈でさらに発展を遂げているもの、また、有名曲で今まで何度も聞いた事がある曲でも彼女の解釈を通して、瑞々しく昇華されているもの、それらがまた、彼女らしい順番でアルバムとして整理され、提示されている様子。伝統曲を扱いながらもどこにもかしこにもAnne Hyttaスタイルが満載で、独善的ではなくすっきりとその理由づけが見える素晴らしい作品です。
この作品は、昨年、フォークミュージックフェスティバルであるFolkelarmでもベストソロアルバムとして受賞したものです。ある意味特殊で狭い分野の中だけでなく、スペルマン賞のような一般に開かれた場でも大きく評価されました。
そして、オープンクラスでは、ニルス・エクランド バンド Nils Økland BandのリスニングLysningというアルバムが選ばれました。
Nils Øklandといえば、ハーディングフェーレを用いながらも常に新しい表現を探り、実験的であったり即興的な作品を発表し続けるプレーヤーです。ともすると、画一的な理想を追求してしまいがちな伝統音楽という分野にありながら、自由な発想を提示し続ける姿が魅力です。「音色の探求」というのがこの方の音楽の一つのキーワードになると言われています。決して、単に綺麗なだけではなく、時にはタブーとされるような音も臆する事なく出していく、という姿勢。とはいえ、いつ聴いてもその音楽は美しく、甘ったるくはないけどロマンチックで、何かいつも救いがあるような、そういう世界観があります。音楽に限らず日々の生活の中で、「いかに無駄のない〇〇をしようか」とか「完璧でない〇〇はいやだ」とか、何かしら自分で設定しているルールに知らず知らず縛られているという状況。「実験音楽ではその場に起こっていることはそれが全てそれで良いと考える。例えば、ハーモニーが最悪だったとか、音色が汚かったとか、曲の終わりがうまくいかなかったとか。でも、それはそれでOK」というような事を、かつて即興を少し始めようとした時に、Nilsと長年演奏しているSigbjørn Apelandが話していたのを、ことあるごとによく思い出します。
ちょうど、スペルマン賞発表の前日、ベルゲンでこのバンドのコンサートがありました。Nilsのコンサートを聴くのは2年ぶり。美しいところあり、ハードなところあり、バンドのチームワーク抜群のとても良いコンサートで、この日も何処と無くいつもの幸福感がありました。
というわけで、これらの受賞が心から嬉しく、停滞気味な生活に少し活気が戻ってきた今日この頃です。
因みに、スペルマンspelemann/ spillemann/ spellemannとは演奏家とかいう意味ですが、伝統音楽の分野では、ダンスの伴奏に弾いたりする場面で、特に、ハーディングフェーレやフェーレの演奏家に対して日常的に使われる言葉です。現代的には「音楽家」という意味のmusikerも使われますが、伝統音楽ではスペルマンの方が圧倒的によく使われる表現です。